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2008年5月 4日 (日)

諸々の問題を抜きにして、「靖国」は映画として面白いのか?

映画「靖国」予告編

映画の評価
★★★☆☆

上映中止問題などが沸き起こったドキュメンタリー映画「靖国」が3日から公開されました。初日は混乱もなく、全回満席だったそうです。テレビでは観客の反応を取り上げていましたが、実にさまざま。大抵の人は「問題があるとは思えない」というものでした。

この映画をめぐっては中身よりも、周辺の方が取り上げられがちですが、ここにきて、映画評も多数出てきました。
ドキュメンタリー作家は総じて辛口。もっとも同業者ですから、その目は厳しいのかもしれませんね。

映像ドキュメンタリー作家の森達也はあるシンポジウムでこんなことを言いました。

「騒ぐほどの内容じゃありません。監督は僕の知り合いでもありますが、『2H』という作品のほうがすごい」。そして、「上映中止といっても、全国で20館で上映されるんですよ。いいじゃないですか。僕の『A』という作品は2本合わせても、そんなに上映されていない。僕はこの件でテレビ番組に呼ばれますけど、僕の映画自体は見られていないんですよ」と本気でやっかんでいたのが笑えました。

李纓監督作品

●刀匠へのインタビューを軸に描く、終戦記念日の靖国神社

映画は伝統の靖国刀を作る年老いた刀匠へのインタビューを軸に、8月15日の終戦記念日の靖国神社の10年を定点観測していきます。

映像にはナレーションはおろか、字幕もありません。刀匠へのインタビュアーは中国人である監督自身が務めますが、「ゆきゆきて神軍」や「ボウリング・フォー・コロンバイン」のような突撃取材があるわけではありません。ただ淡々と進んでいきます。

熱く激突するのは、終戦記念日の靖国神社での風景です。英霊に鎮魂を捧げる者、「勝手に合祀された」と怒る遺族・台湾人。そして、慰霊祭に意義を唱えて、抗議する若者に、「中国人だろ、とんでもないやつだ」と詰め寄る”愛国主義者”。そこには否定もなければ、肯定もない。ただ風景だけが続いていく。

●刀匠と監督の対峙はスリリング 

作家の主張が見えてくるのは刀匠との最後の会話。ここは映画的な問題もありますが、スリリングな場面に仕上がっています。

監督は「刀は役に立ったのですか?」と聞き、すごく間があって「役に立ったと思う」と答える。監督は長きにわたって、インタビューを試みているから、ある程度の信頼関係を築いているのだろう。しかし、刀匠は見抜いている。そして、逆に監督に聞くのです。
「首相の靖国参拝はどう思うのか?あなたは中国人だから、思うことがあるだろう」
監督はただ黙っている。そして、刀匠がその質問をあきらめるのを待つ。
監督は話題を変える。
近くのカセットを見て、「どんな音楽を聴いているのですか?」と聞く。
刀匠はデッキから音楽を出してくる。その間、刀匠はあちこち触って、なかなか見つからないのですが、あえてノーカットで編集はしない。

最後は戦争の記録フィルムの抜粋で軍刀を振る軍人のコラージュが続く。このコラージュをどう見るかで、「反日的」と捉えることもできるのかもしれない。

●刀匠と靖国の関係性が薄く、説得力を欠く。続編に期待したい

刀は靖国神社のご神体だそうだ。だからこそ、刀匠の仕事とインタビューを物語の縦軸に置いている。しかし、靖国刀の職人のエピソードと靖国神社の問題がうまく絡まっていない。個と国家という視点もありかもしれませんが、その域にもなっていない。非常に中途半端な印象。キーワードがつながっているだけとしか、僕には見えませんでした。ここに最大の失敗があるように思えます。

細かいことを言えば、第二次世界大戦において、どれだけ刀が武器としての意味を果たしたのだろうか、という疑問もあると思います。大戦で武器の大半を占めたのは銃でしょうし、爆弾、ミサイルがあり、もっと大きいもので言えば、原子爆弾があります。

ドキュメンタリー映画はニュース・報道ではありません。前にも書いた通り、取り上げ方が公平である必要はない。ある種の偏向は作家の主張と捉えていい。それでも、説得力はなければ、成立しないと思います。

この映画は長年、日本のドキュメンタリー作家が挑まなかった靖国問題を取り上げています。その点は大いに買えるのですが、一歩足りず、平均的なレベルで終わっている。そこが惜しい気がしました。続編に期待したいと思います。

しかしながら、出来は別にしても、見て欲しい作品です。そうでなければ、この映画の内容について語ることはできませんからね。

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