平凡なるもの~建築家 吉田鉄郎物語~吉田鉄郎シンポジウム
日本建築学会シンポジウム「日本における近代建築の原点~吉田鉄郎の作品を通して~」が6月30日、東京・田町の建築会館ホールで行われ、検見川送信所を知る会のメンバーも多数参加し、交流を深めた。
吉田鉄郎氏は検見川送信所の設計者(詳しくはこちら)。主催者側のご厚意で、「検見川送信所を知る会」のチラシも配布資料200枚に折り込ませていただいた。来場される方は検見川送信所にも関心を持っていただける方であろうし、その効果は大きい。大感謝です。
→吉田鉄郎シンポジウム用「検見川送信所を知る会」フライヤーpdfファイル
また、建築学会の方ともご挨拶することができ、新たなパイプができた。大収穫だった、と思う。全体的に有意義な会だったが、まずは富山テレビが制作したドキュメンタリー「平凡なるもの~建築家 吉田鉄郎物語」について書きたい。
吉田鉄郎は富山県出身で、最近では東京中央郵便局の建て替え問題(もちろん、検見川送信所の取り壊し問題も!!)が浮上。そこで、富山テレビではモダニズム建築の先駆者、吉田の建築への考え、生き様にスポットを当てたようだ。
正直言うと、吉田鉄郎は派手な建築家ではない。ル・コルビジェ、ルイス・カーン、フランク・ロイド・ライトといった世界的な著名人ではないし、黒川紀章のようなパフォーマンスも、丹下健三のような作品そのものの派手さもない。悪く言えば、地味な建築家だ。僕も正直、検見川送信所と出会う前は名前すら知らなかった。吉田鉄郎にスポットを当てたドキュメンタリーを制作するとすれば、NHKくらいなものだと思っていた。視聴率も取りにくいだろう。
しかし、この平凡さが吉田鉄郎の持ち味であり、そこに、かつての日本人が持っていた美徳、価値観が見て取れる。そこに気づくまでは彼が設計したモダニズム建築同様、わかりにくい。そんな番組を作った富山テレビはえらい。
しかも、その内容には制作陣の「本気」が感じられた。ナレーションは女優・中島朋子。ドイツ、スウェーデンへのロケも敢行。テレビ局の制作現場は経費節減の傾向にあり、富山テレビも属しているFNS系の親玉フジテレビでも、抑え込みにかかっていることを考えれば、かなり破格の扱いだったのではないか。
番組は吉田鉄郎をまったく知らない人間でも、彼を愛したくなるようにできている。
吉田は平凡さを愛した。
彼の言葉にこんなものがある。
「平凡な建物をいっぱい建てました」
謙虚な言葉であり、平凡な言葉にも聞こえるかもしれない。これは彼の創作への厳しさへの現れでもあるだろう。そして、素直に平凡さこそを愛した。しかし、それこそが彼の非凡さである。平凡であることにある普遍性をしっかり見いだしたのではないか。
吉田は機能を追求しながらも、彼が持っている美意識を反映させた建物を数多く建てた。東京中央郵便局も、その好例。日本の住宅のよさを上手く取り入れながら、当時の新素材だったコンクリートを取り入れた。いろんなものを追求していくと、シンプルになる。それゆえ、外観には装飾はまったくなく、平凡な建物ということになる。だが、そこに至るまでの建築思想は奥が深い。
ドイツロケでは吉田がドイツ語で出版した「日本の住宅」「日本の庭園」「日本の建築」の出版元を訪れ、そこで吉田の生原稿を発見する。これは当たりをつけてロケに出かけたのかと思うのが普通だが、東亜希子ディレクターによると、「行けば何かあるだろう」くらいの感覚で出かけたそうだ。これも贅沢な話だが、ここに勢いというか、本来のモノ作りの精神を感じる。
ドキュメンタリーにはシナリオがないわけではない。着地点も一応は決まっている。それでも、ハプニングがなければ、ドキュメンタリーは面白くない。
制作者が行間に折り込んだ”何か”を読み取っていけば、「今を生きる僕ら」が危機に立たされている吉田建築に対して、何をすべきか、自ずと分かっていくはずだ。このドキュメンタリーを千葉・検見川の地でも上映し、その後にみなさんで検見川送信所を見てみたい。そんな思いを持った。

賛同してくださる方は以下のソースを貼り付けてください。
<a href="http://kemigawaradio.web.fc2.com/" target="_blank"><img src="http://moleskine.air-nifty.com/photos/sozai/banner.jpg" width="170" height="60" alt="musenhozon.jpg" border="0"></a>
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昨日、田町の建築会館ホールで「日本における近代建築の原点~吉田鉄郎の作品を通して~」というシンポジウムがあり、会社帰りに寄ってきました。http://news-sv.aij.or.jp/jnetwork/scripts/view30... [続きを読む]
受信: 2008年7月 1日 (火) 17時01分




コメント
まずはシンポジウムの参加、お疲れさまでした。たくさんの新たな収穫があったようでなによりです。
まずはシンポジウムの写真をHP掲載用にダウンロードいたします。
投稿: まさやん | 2008年7月 1日 (火) 10時22分
平凡の中に潜む非凡・・・・・
私の設計思想もこうした考えに近いと思っています。設計も極めれば必然的に簡素になっていくものです。
一見すると複雑な装飾的なものの方が優れていると考えられがちですが、煩雑なものは整理する段階まで辿り着けなかっただけのことのような気がします。
特に、機能を伴わないデザインのためのデザインのようなものは、工業製品でも建築でも好みではありません。
なかなか素敵な建築家ですね。地味であることも彼の価値かも知れません。きっと本人も名前が売れることは望んでいないでしょうしね(笑)
投稿: しぇるぽ | 2008年7月 1日 (火) 12時26分
>まさやんさん
写真ダウンロード、お手数をおかけします。
主観ありありの文章になってしまったので、もう少し客観的なバージョンをメールマガジンで配信しますね。少しお待ちを。
投稿: 久住コウ | 2008年7月 1日 (火) 21時50分
>しぇるぽさん
>一見すると複雑な装飾的なものの方が優れて
>いると考えられがちですが、煩雑なものは整
>理する段階まで辿り着けなかっただけのこと
>のような気がします。
まさに吉田鉄郎のメソッドですね。
シンプルゆえに、その良さがわかりにくいというのはなんとも皮肉な話ですが、その良さを伝えることこそ、彼の財産を受け取った現代人の役目ではないかと思うのです。
>特に、機能を伴わないデザインのためのデザ
>インのようなものは、工業製品でも建築でも
>好みではありません。
工業デザインでいうと、僕はドイツのものが好きですね。文具でもカメラでも研ぎ澄まされています。
>なかなか素敵な建築家ですね。地味であるこ
>とも彼の価値かも知れません。きっと本人も
>名前が売れることは望んでいないでしょうし
>ね(笑)
きっと自分に厳しい方だったのでしょう。群れることもしなかったようですし。よい建物を作ることに集中していたのでしょう。
投稿: 久住コウ | 2008年7月 1日 (火) 21時59分