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2008年10月 4日 (土)

「『家をつくる』ということ」(藤原智美)★★★

今では近代建築見学が趣味のひとつになったが、元はと言えば、家を建てたことがきっかけだった。言うまでもなく、衣食住は人間の営みの基本であり、家を建てるということは、自分の生活設計、ライフスタイルを見直すことである。

同書は「運転士」で芥川賞を受賞した藤原智美氏のノンフィクション。グッドデザイン賞を受賞したミサワホームの蔵のある家の取材記や精神科医Kとの対話によって、家とは何かを筆者なりに解き明かすという内容だ。

最後の参考文献リストを見ると、よく読んでいるなぁとは思うが、取材自体はミサワホームがほとんど全て。「ミサワホームの社報か?」と皮肉る声もあるだろう。

とはいえ、本をきっかけに、家への思いを改めて問いただされる部分も多い。

さすがに、作家だと思わせるのは、小説を通じて知り合ったという精神科医Kとの対話として、日本の家の本質を解き明かすことだろう。Kが実在の人物なのか、筆者が作り出したもう一人の人格かは定かではないが、うまく話を転がしてみせる。靴を脱ぐ習慣、リビングルームが持つ意味合いの国内外の違いをうまく引き出している。

欧米のリビングは人を招くことが前提にあって、日本のリビングは生活の延長である。パブリックスペースという意識はあまりなくて、そこには私物がなだれ込み、整理整頓などできない。そうなると、とても人様を招くことはできない、というわけだ。

欧米のリビングルームが洗練されているのは、「人の目を意識した緊張感によって培われている。そして人々は住まいを、その歴史的蓄積の中で見ることができる。代々受け継がれてきた住まいに対する感覚というものがおのずと備わっている」と文中のKさんは言う。

そういわれれば、雑誌で憧れるような欧米のリビングルームというのは、日本のリビングに置いてあるものが違うように思える。また、リビングとしての機能も違うのだろう。しかしながら、これはどっちがいいか悪いかという話でもない。

家をめぐる話だが、当たり前のことながら、人間関係の話になる。家を作ることは、家庭の内外でいかに人間関係を構築していくかということだ。人を呼べるような家に住みたいのか、家でくらいゆっくりしたいから、人は呼ばないのか。どちらでもいい。それは個人のスタンスの問題だろう。

筆者は同書執筆時点、独身で、実際に家を建てたことはないようだが、実際に家を建てた人間がいわせると、実際の家作りは「妥協の産物」である。

まず大きな理想がある。たとえば、交通の便のいい、広い家を目指す。ところが、そういった場所の戸建ての価格非常に高い。すると、何を取って、何を削るか、ということになる。そんな妥協の結果、悲しいかな欠陥マンションや欠陥住宅をつかんでしまう人もいる。「家をつくる」ということは本当に難しい。

僕の場合は妻子と3人暮らし。モノレール駅徒歩1分、約55平米のマンションに住んでいた。当時、子供部屋はなく、段ボールの上にガラステーブルのテーブル部分を置いた即席の学習机で勉強する娘の姿を見て、「これはダメだ」と感じ、新居探しを始めたのだ。住宅ローンはさらに延長になったわけで、仕事、ライフスタイルなどより真剣に考えなくてはならなくなった。

多分、夫婦だけの生活ならば、家を建てることに、さほどこだわらなかっただろう。やはり、家は子育てがあってこそだ。それにしても、家というやつは、どんな人でも、本一冊くらい書けるくらいの考察が書けると思う。

考え込むと、いろんな作業が進まなくなりそうなので、まずは部屋を掃除するか。そんな気分にはなる本である。

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コメント

住宅雑誌をパラパラめくっていて「おっ!」と目が止まるのは、大抵欧米の住宅です。

誰かが来ることを前提としたインテリア・・・だからなんでしょうか?

結果論ですが、どうやら私達家族の家に対する感覚は、ちょっと欧米よりだったようです。

投稿: しぇるぽ | 2008年10月 5日 (日) 07時46分

>しぇるぽさん

>住宅雑誌をパラパラめくっていて「おっ!」と
>目が止まるのは、大抵欧米の住宅です。

>誰かが来ることを前提としたインテリア・・・
>だからなんでしょうか?

欧米の家具、インテリアは洗練されていますよね。しぇるぽさん宅はオープンハウスをされたり、訪問される方が多いようですね。

日本製の家具が最も日本人の暮らしぶりを理解しているデザイナー、職人が作っていると思いますが、洗練度は欧州の方が上ですね。なぜでしょう?
多分、大きな家具は一生に1度、2度買うか買わないかという類のものなので、その進化の進み具合は遅いのかもしれません。

>結果論ですが、どうやら私達家族の家に対す
>る感覚は、ちょっと欧米よりだったようです。

照明の選び方もそんな感じですよね。

投稿: 久住コウ | 2008年10月 5日 (日) 12時49分

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» 「家をつくる」ということ 【藤原智美:著】 [山荘きらら]
今、親友が家を建てている最中だということを3月のスキーに行けそうにない・・・・という彼からの電話で知りました(笑)そんな彼と彼の奥様に、是非読んで欲しいのがこの本です。いざ、家をつくる段になるとそのほんどは機能的な部分の取捨選択になりますがそれ以前に家...... [続きを読む]

受信: 2008年10月 5日 (日) 07時43分

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