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2008年11月 9日 (日)

「ロカルノ半世紀/映画の未来」★★~第10回東京国際映画祭の性器カット事件

※以下の記事は僕が以前、運営していた映画サイトからの再録。現在、ネット上には存在していないので、ブログに収録することにした。

●第10回東京国際映画祭の性器カット事件(97年11月4日)

国際映画祭では大作をいち早く見られるが、映画祭でしか見られない作品(商業的な劇場公開は難しいという意味)を見るというのもお薦め。

「ロカルノ半世紀/映画の未来」は97年、東京国際映画祭の「シネマプリズム」という企画コーナーでの1作。97年11月4日、渋東シネタワーで上映された。映画祭では毎年、映画自体を素材にした珍しい作品を上映している。これはロカルノ映画祭50周年を記念して作られたオムニバスで、映画監督が独自の考察で「映画の未来」を語る。テーマ以外は自由で、作品の尺もまちまちだった。

「その日、私は……」(シャルタル・アッケルマン)
「エレーナ」(マルコ・ベロキッオ)
「光の誕生」(アッバス・キアロスタミ
「電気の亡霊」(ロバート・クレイマー
「映画の追放者」(イドリッサ・ウエドラオゴ)
「来るべき映画」(ラウル・ルイス)、
「少女」(サミール)。計35分。

上映前にはアッバス・キアロスタミ監督、ロバート・クレイマー監督による舞台挨拶もあった。キアロスタミ監督は自らの作品「夜明け」について、「これを映画と言ってもいいものか」と語った。その話しぶりは何だか、その場に居合わせるのも申し訳ないといった風にも感じられた。その一方、映画祭事務局からは「これはもともとビデオ作品で、東京での上映のために、16ミリのフィルムに起こしたもので、本邦初公開です」というもったいぶった説明もあった。

そんなわけで、作品を大いに期待したのだが、いろんな意味ですごかった。カメラは固定。暗い画面から徐々に明るくなっていくと、山並みから太陽が顔を覗かせる。要するに本当に「夜明け」を撮っただけなのである。

後に波紋を呼んだのは、クレイマー監督の「電気の亡霊」である。暴力がはびこる未来のイメージとして、ポルノ映画に出てくる男性器、女性器をアップにして、インサートしている。これには東京税関は「ノー」を出した。映画祭出品作中、唯一カットされた。舞台あいさつで、クレイマー監督は「映画祭の態度に疑問を感じる」と言ってのけたのだ。

よくよく聞けば、この話にもちょっとした裏があるらしい。

クレイマー監督は検閲の話を聞いた時、不満には思いながらも、一度は「仕方ない」と了承したのだという。しかし、いろいろな人から「カットされるのはおかしい」と言われているうちに、怒りが再燃。上映当日に頂点に達したのだった。しかし、その訴えは無は終わらなかった。スクリーンにカットされた場面が黒コマとして、写しだされた時、若干名の観客からブーイングが飛んだ。

監督の気持ちもよくわかる。しかし、カットされたことを怒るのであれば、出品すべきではなかった。ノーカットが通らないなら拒否すべきだった。「性器がわいせつだというのなら、僕のペニスを税関で切り取るがいい」とでも言えばよかったのだ。後々、文句を言うのはルール違反である。

ここには、もうひとつの問題が横たわっている。

それは映画祭事務局と税関に関する問題だ。国際映画祭は作品をノーカットで上映するのが、国際的な不文律になっている。多くの国では芸術性を尊重し、一般の劇場公開ではカットになるような性的な描写も認めているということがある。それが結果として、「表現の自由」を確保している。例えば、ヘアヌードをめぐって、芸術かわいせつかの論争になった「美しき諍い女」(92年)は東京国際映画祭でノートカット上映されたことがきっかけになり、一般公開でも一部無修整となり、その後、無修正版も劇場公開された。

作品を切り刻むということは作家にとっては肉体を切られる思いだろう。黒澤明監督は「白痴」が長すぎるからと、松竹からカットされた時、「そんな切りたければ、フィルムを縦に切れ」と言ったエピソードは有名だ。

事務局と税関の間でどんなやりとりがあったのかは分からない。事実として言えることは事務局は税関の言う通り、従った。同じく、クレーマー監督も妥協してしまったのだ。それについて、何を言おうと、後戻りはできない。事務局とクレーマー監督は自らが犯した失敗を悔やむしかない。

僕はこの事件が今後、「映画の未来」に暗い影を残さないことを祈る。ちなみに、そのクレーマー監督の作品だが、特段優れた作品だとも思わなかった。この事件のほうがよっぽど興味深かった。(97年11月4日、渋東シネタワー、初出、某映画サイト)

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