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2008年11月15日 (土)

「遥かなる帰郷(THE TRUCE)」★★★★

ユダヤ系イタリア人小説家プリモ・レヴィが1963年に発表した死の収容所アウシュビッツから帰還の記録を「シシリーの黒い影」「黒い砂漠」の社会派フランチェスコ・ロージが映画化。第2次大戦中、アウシュヴィッツでの過酷な収容所生活で言葉を失った男が母国イタリアに戻るまでの長い旅の間に、人間らしい感情、生の喜びを取り戻していく。

監督・脚本・脚色:フランチェスコ・ロージ

出演:ジョン・タトゥーロ「バートン・フィンク」

アグニェシカ・ヴァグネル「シンドラーのリスト」

ステファノ・ディオニジ「カストラート」

第50回カンヌ国際映画祭正式出品。イタリア、フランス、ドイツ、スイス合作。(日本ヘラルド映画)

98年のカンヌ映画祭の審査員賞はイタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」(ロベルト・ベニーニ監督)が受賞した。ユダヤ人収容所を舞台にした話だという。本作はその前年、コンペティション部門に出品された。内戦が続く欧州では、今も、戦争は大きなテーマである。近年でも、「大地と自由」(ケン・ローチ監督)、ユーゴ内戦を描く「アンダーグラウンド」が出品されたのが記憶に新しい。

 
 
悪名高きユダヤ人収容所「アウシュビッツ」。「シンドラーのリスト」などでも取り上げられている題材だが、この映画がほかの作品と違うのは、解放されたユダヤ人が家路につくという別の角度で、戦争、生きることを見つめているということだ。

冒頭、ロシア軍によって、壊された収容所の扉を前に主人公プリモは呆然と立ち尽し、そして、言う。「私たちは自由を得たということと同時に、これからどうしたらいいのかという不安に駆られた」。これらは体験した者でなければ、わからない感情だ。解放されたことで、逆に不安が生まれるとは、僕には想像できない。

彼はいったんは脱いだ囚人服を再び着て、祖国へと向う。主人公にはアウシュビッツの忌わしき思い出がこびりついた服を着ることによって、自分が今後生きる意味を見つけようとしている。この服がアウシュビッツで起ったことを我々に想起させる。

ジョン・タトゥーロは主人公の複雑な心境をシンプルでかつ、情感を押えた演技で見せる。それだけに、主人公が出会った人々の姿が際だち、その相乗効果で主人公という人間が見えてくる。

すべては金と割り切るギリシア人、男の武器を最大限に利用するしたたかなロシア人看護婦、期せずして、イタリア人難民をまとめることになり、四苦八苦する男・・・。戦後を力強く生きようとする人々の姿を、カメラのような冷静な目で人々をみつめている。それは、いかなるものも記憶して、後世に残そうという強い意志のようでもある。

彼がアウシュビッツについて、声高く主張するのは、ロシアの闇市だけだ。シャツを売る彼は、覚えたてのロシア語で値段を連呼するが、売れるどころか、人々は彼から遠ざかっていく。ある紳士は主人公に忠告する。「その服のせいだよ」。ジャケットの下からはアウシュビッツの囚人服とそのシンボルマークがはっきりと見える。

「なぜ避けるんだ。アウシュビッツは小さな子供や女が殺されていったんです。現実を見てください」

主人公の大きな声は逆に人々を遠避ける。
紳士は言う。
「みんな早く忘れたいんだ」

その言葉に彼は気落ちしながらも「記憶すること」「伝えること」を自分の使命と感じていく。

原作はプリモ・レーヴィのノンフィクション小説「休戦」。数々の文学賞に輝き、ベストセラーとなった。フランチェスコ・ロージ監督は87年に映画化を思い立ち、レーヴィに連絡した。彼は「人生の暗黒の部分に一筋の光を当てられた」と喜ぶが、その1週間後に自ら命を絶つ。遺書などはなく、いまとなっては理由は分からない。

映画で感じたのは、レーヴィの不器用すぎる誠実さ。レーヴィは内に秘めた悶々とした思いを解き放つことによって、自らの使命が終わったと感じたのかもしれない。(98年6月6日、シネスイッチ銀座)

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