国重要文化財、旧京都中央電話局西陣分局舎は裸婦だらけという前衛建築
地元・千葉市にある検見川送信所をきっかけに、近代建築に興味を持つようになった。
検見川送信所をめぐっては、千葉市側が「国登録文化財が妥当」といい、日本建築家協会は千葉市指定文化財に指定するよう陳情している。この議論をめぐって、「検見川送信所を知る会」が2月14日にシンポジウムを行うことになった。このシンポジウムは「国登録がいい」とか、「市指定文化財がいい」とか早急に結論を出そうというのが目的ではない。みんなで考えてみようというのが趣旨だ。
僕も建築に関しては素人であるから、じっくり考えてみたい。
千葉市が国登録文化財が妥当という理由は「地元住民の利活用を求める声を反映した結果」と説明している。市指定文化財では利活用ができない、という。
これに関しては、まったくの誤りである、ということは断言できる。
先日、京都を訪れた。短い間だったが、近代建築めぐりをする機会を得た。
古都・京都は伝統的な日本建築の宝庫というイメージだが、近代建築もたくさん残っている。
検見川送信所の設計者である吉田鉄郎さんの逓信建築物も2つ残っているのだが、それとは別に、ぜひ見ておきたい建物があった。
それが「旧京都中央電話局西陣分局舎」である。分離派建築博物館で、その存在を知り、その後、検見川送信所を知る会主催のシンポジウムで基調講演をされた建築史家、倉方俊輔さんも逓信建築の例として、紹介してくださった。
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29歳の若さで亡くなった岩元禄という人物による唯一の現存建物。
何がすごいって、お役所の建物なのに、裸婦のトルソー、レリーフが飾られている。前面部分なんか、ハダカだらけである。京女はこれをどう見たのだろうか?
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裸婦のレリーフは芸術だ。しかし、今、新たに官公庁の建物を建てるとして、同じようなことをしたら、許されるだろうか?
きっと、なんで官公庁に裸婦を飾る必然性があるのだ? と問われることだろう。
必然性という意味では、一切ない。
電話と裸婦。不思議な関係だ。この建物をめぐるミステリーであろう。
追記(09/1/27)
夭折の芸術家、岩元 禄に詳しい説明がある。レリーフは山田守が岩元のスケッチと模型を基に実現したものだそうだ。
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この写真を見てもらうと、そのこだわりはかなりのものだ。トルソーは、下からの構図を明らかに意識している。下半身、胸の辺りは肉感的だ。
この斬新な建築。平成18年7月5日に国重要文化財に指定された。重文としては新しい時代の建築だが、その先駆性が評価された、ということだろう。
文化庁の解説を引用しよう。
解説
旧京都中央電話局西陣分局舎は,油小路通と中立売通との交差点西南角にある。京都市内で三番目の電話分局であり,大正9年10月の起工,翌年12月の竣工で,設計は逓信技師の岩元祿である。鉄筋コンクリート造2階一部3階建であり,外観は,正面1階に半楕円形断面の柱3本を立ち上げ,各頂部にヴィーナスのトルソーを載せ,2階弓形出窓の周囲や東面2階庇下を踊り子のレリーフ・パネルで飾る。
旧京都中央電話局西陣分局舎は,夭折した建築家岩元祿の現存唯一の建築作品である。外観意匠は極めて独創的で,ドイツ表現主義と同質の造形意匠を創出した作品として,日本近代建築史上重要である。
国の重文だから、利活用できないのか?
答えは否だ。
内部を見て頂こう。
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建物はNTTの文字でも分かるように、NTT所有だが、内部は民間企業が入っている雑居ビル。内部に当時の意匠が残っていないのは残念だが、しっかり活用されている。
千葉市はこんな事例も知らないのだろうか?
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コメント
ヨーロッパなどでは旧い教会のような文化財に指定されている建築物の内部を改装して、個人の住宅にしているなんて例もよく見られますよね。
文化財になると、外観だけでなく内装も含めて全てをそのまま保存しなければならない・・・なんてことは無いでしょうし、そんなのナンセンスですね。
英国などでも不動産広告には間取りなどの情報は無く、外観のことしか書いてなかったりするそうですが(笑)住宅の外観も地域にとって重要な価値であるという認識が無いんでしょうかねぇ?日本は。
それにしてもご紹介されている例は、外観からは現代風にリフォームされた内装を全く想像できませんね。生まれ変わるとはこういうことかも知れません。
投稿: しぇるぽ | 2009年1月27日 (火) 12時43分
>「国登録がいい」とか、「市指定文化財がいい」とか早>急に結論を出そうというのが目的ではない。みんなで考>えてみようというのが趣旨だ。
全くそのとおりですね。建築物の、何当初のまま維持し、何を今日的に改変して活かすかについては、とても難しい問題です。建物個々に違うはず。よーく調査や検討がなされてはじめて答えが出るものですよね。
入り口の段階で行政サイドに「・・・文化財が妥当」と結論付けられては、周囲から、順番が逆だと言われても仕方が無いでしょうし、保存活用姿勢そのものに疑問を抱かれても仕方ないですね。
岩本禄は、建築だけでなく絵画,装飾,舞台芸術など様々なジャンルからなる領域横断的グループ「尖塔社」に所属していただけあって、西陣の例も、都市のパブリックな芸術という広い視野で捉えていた人なのでしょうね。まさに今日のアートの始まりここにあり、ってことでしょうか。
投稿: Kikuchi | 2009年1月27日 (火) 14時19分
>文化財になると、外観だけでなく内装も含め
>て全てをそのまま保存しなければならな
>い・・・なんてことは無いでしょうし、そん
>なのナンセンスですね。
内装でも、文化財的に意義のあるところは残した方がよいとは思いますが、古い建物で暮らしたり、働いている人のことを考えれば、冷暖房や照明は整えるべきでしょうね。
>英国などでも不動産広告には間取りなどの情
>報は無く、外観のことしか書いてなかったり
>するそうですが(笑)
それはなかなかすごいですね。
>住宅の外観も地域にとって重要な価値である
>という認識が無いんでしょうかねぇ?日本は。
徐々に変わりつつあるとは思いますが、まだ経済性が優先されていることが多いですね。一過性の経済性よりも、長い目で見る必要があると思うんですが。
>それにしてもご紹介されている例は、外観か
>らは現代風にリフォームされた内装を全く想
>像できませんね。生まれ変わるとはこういう
>ことかも知れません。
当時はどんな内装だったのでしょうね。そちらも気になりますね。
投稿: 久住コウ | 2009年1月27日 (火) 23時06分
>全くそのとおりですね。建築物の、何当初の
>まま維持し、何を今日的に改変して活かすか
>については、とても難しい問題です。建物個
>々に違うはず。よーく調査や検討がなされて
>はじめて答えが出るものですよね。
そうですよね。
例えば、下関第一別館がどのような手順を踏んで、田中絹代記念館になっていったのか、その辺も知っておく必要があるでしょうね。
>入り口の段階で行政サイドに「・・・文化財が
>妥当」と結論付けられては、周囲から、順番
>が逆だと言われても仕方が無いでしょうし、
>保存活用姿勢そのものに疑問を抱かれても仕
>方ないですね。
付随して、千葉市の場合は、歴史的建造物を軽んじていたという事実もありますからね。その辺を考えても大いに不安が残ります。
>岩本禄は、建築だけでなく絵画,装飾,舞台
>芸術など様々なジャンルからなる領域横断的
>グループ「尖塔社」に所属していただけあっ
>て、西陣の例も、都市のパブリックな芸術と
>いう広い視野で捉えていた人なのでしょうね。
>まさに今日のアートの始まりここにあり、
>ってことでしょうか。
なるほど、一層興味が湧いてきましたよ。岩元禄の本を読んでみることにいたします。しかし、立原道造といい、才能のある人は夭折しますね。
投稿: 久住コウ | 2009年1月27日 (火) 23時25分
トラックバック、ありがとうございました。
>前面部分なんか、ハダカだらけである。京女はこれをどう見たのだろうか?
直視できずに、顔を伏せて通ったそうですよ :-)
もしまたお越しになることがあれば、ご連絡ください :-)
建築史家、倉方俊輔さんの講演録、面白かったです。検見川送信所がうまく保存活用できると良いですね。
投稿: 中西洋一 | 2009年1月28日 (水) 00時57分
中西洋一さん
>トラックバック、ありがとうございました。
勝手ながら、興味深い記事だったので、トラックバックさせていただきました。
ほかの記事も興味深かったです。
>>前面部分なんか、ハダカだらけである。京
>>女はこれをどう見たのだろうか?
>直視できずに、顔を伏せて通ったそうですよ >:-)
やはり、そうですか。こんなにハダカだらけだと、そうなりますよね。
>もしまたお越しになることがあれば、ご連絡
>ください :-)
ずうずうしいので、本当に連絡してしまうかもしれません。
>建築史家、倉方俊輔さんの講演録、面白かっ
>たです。検見川送信所がうまく保存活用でき
>ると良いですね。
倉方さんはご自身のブログをお持ちです。こちらも非常に面白いです。
http://kntkyk.blog24.fc2.com/
検見川送信所のこと。ありがとうございます。何も知らない市民が声をあげ、建築家、元職員のみなさんのバックアップを受けながら、活動しております。千葉に限らず、広くみなさんに知って頂きたいと思っています。ご支援よろしくお願いします。
投稿: 久住コウ | 2009年1月28日 (水) 01時18分