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2009年2月 9日 (月)

そうでもしなければ、金星は悲しみで埋まってしまう

6日に亡くなった母方の祖母の告別式が都内で行われました。

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身長140センチちょっとの祖母は身の丈よりも随分大きな棺桶に入れられ、荼毘に伏されると、今度はみんなで骨を倍もある骨壺に納めました。随分小さな人だったんだなと改めて思いました。

もちろん、哀しい出来事ではありますが、涙はあまり出ませんでした。祖母は人生最後の日、「今日は楽しかったよ」といい、眠るように亡くなったからでしょうか。

前夜は仕事が終わって、深夜に斎場に到着し、明け方まで、二人きりになった母と珍しく話し込みました。

母は落ち着いていて、「不思議と大丈夫」と言います。

以前も書いた通り、祖母は昨年7月に千葉にやってきて、「こんなに楽しかったのは生まれて初めて」と言って、食事にカラオケを楽しんで帰りました。

祖母はその後、9月に足を骨折をしました。雷に驚いて、けつまづいたのですが、本人は「雷と相撲を取って、負けた」と笑っていたそうです。以後3か月間、入院していたのですが、母は週に2、3回、千葉から都内の病院に通っていました。

商人の家で育った母は幼少の頃はもちろん、少女期も、祖母とあまり一緒の時間を過ごすこはなかったそうです。だから、その3か月間は、母にとって、親子水入らずで過ごした初めての時間でした。

「あの3か月は、心の準備の時間でなかったのかしら」と母。

祖母は骨折した他はいたって元気で、頭もしっかりしていましたので、随分会話もしました。その時、「こんな風にお母さん(祖母)と過ごすのは最後だろうなぁ」と思っていたそうです。

母の話を聞いていると、村上春樹の「1973年のピンボール」の一節を思い出します。

「金星人は今日誰が死んでも悲しまない。その分だけ生きているうちに愛しておくから」

やはり、祖母は幸せだったのではないか。そんな風に思うのです。





「1973年のピンボール」(村上春樹)より

金星は雲に被われた暑い星だ。

暑さと湿気のために住民の大半は若死にする。

三十年も生きれば伝説になるほどだ。

そしてその分だけ彼らの心は愛に富んでいる。

すべての金星人はすべての金星人を愛している。

彼らは他人を憎まないし、うらやまないし、軽蔑しない。

悪口も言わない。

殺人も争いもない。

あるのは愛情と思いやりだけだ。

「たとえ今日誰が死んだとしても僕たちは悲しまない」

金星生まれの物静かな男は言った。

「僕たちはその分だけ生きているうちに愛しておくのさ。後で後悔しないようにね。」

「先取りして愛しておくってわけだね?」

「君たちの使う言葉はよく分からないな」と彼は首を振った。

「本当にそう上手くいくのかい?」と僕は訊ねてみた。

「そうでもしなければ」と彼は言った。

「金星は悲しみで埋まってしまう」



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