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2009年5月 8日 (金)

雑賀雄二さんの「軍艦島」写真集3冊をめぐって

雑賀雄二さんは兵庫県出身で愛知県立美術大学在学中の1974年、島に渡り、無人になるまで撮影を続けた。

「雑賀雄二写真集軍艦島棄てられた島の風景」は、雑賀さんが作家、洲之内徹さんと渡った際に撮影したもの。巻末には1974年に無人化される滞在した時のレポートがある。

作家、洲之内徹さんは「廃墟は人間の営みにのみ起こる現象である」と書く。自然界は一度は失っても再生するからだ。

また、廃墟が怖いとみるのは、人間そのものの怖さではないか、とも指摘する。


「人間のいる恐ろしさではなく、いるはずの人間がいない恐ろしさだが、それはそれで、人間の恐ろしさといえないだろうか」

黒澤明は雪原の中をコントロールを失い、暴走する汽車をめぐるサスペンス「暴走機関車」で、登場人物の一人に「本当に怖いのは自然ではない、人間だ」と言わせている。

また、劇作家バーナード・ショウは「人間の最大の罪は憎しみではない。無関心だ」という言葉も残している。

廃墟とは、人間の無関心を映す鏡ではないかと僕は思う。

その一方、建物は廃墟となった瞬間、その役割を終え、人間の支配から離れ、「死という時間」を己のエネルギーを振り絞って生き始める。だから、廃墟は最後の最期まで朽ちるまで、死の時間を「生きている」とも言える。廃墟は「独特のオーラを持つ」といった形容をされるが、廃墟のエネルギーのメカニズムはこういったことじゃないか。だから、人々は廃墟を忌み嫌い、恐れ、一方、それに魅力も感じる人もいる。

廃墟は常に崩壊(死)に向かって進行している。そういう風に見えていくと、まさに廃墟は人間そのものである。人間によって、生を受け、死に向かって生き続ける存在。弱さも強さも合わせ持つ存在。このパラドックスもどこか人間臭い気がしてならない。

さて、雑賀さんは10年後の1984年、再び島を訪れる。

その時の写真が「月の道」となっている。文字通り、月光の下で撮影されたモノクロ写真集。夜空には長時間露光を物語る星の軌道が写っている。荒々しいはずの波が、まるで真綿のように、あるいは光のようにも見える。岸壁にこだわって撮影していて、海の向こうには高島の人工の光が見える。それが月光のみで光る軍艦島と対照的だ。

後書きには、こう書き記している。

「島は荒れていた。人の匂いも失われていた。しかし、建物のなかには、人が暮らした痕跡がまだ濃厚に残っていた。無人の廃墟で見るそれらの痕跡は、気味が悪いほど生々しかった」

しかし、気味が悪いと感じる中、「奇妙なやすらぎ」も感じたと書き、亡くなった父母の夢を見た、と書く。なんだろう?不思議な場所なんだろうな。

3冊目の「軍艦島―眠りのなかの覚醒」は「軍艦島 棄てられた島の風景」の絶版に伴い、収録作品を入れ替え、再編集したもの。東京都現代美術館の学芸員、笠原美智子氏の文が興味深い。全面的に賛成はしないが、学芸員はこういう見方をするんだなぁと思ってしまった。


軍艦島は美術館であるといったら、突飛すぎるだろうか。しかも、封印されることで成り立つ「美術館」である。軍艦島では島自体を含めてモノが、勝手に自らを美術館にしてしまったのである。軍艦島は人間に棄てられ、封鎖され、そして長い時を経て、今では人間を拒否し、自らを封鎖することで美術館になっている

美術館にはアートを殺すハコ、墓場であるという議論がある。

絵は本来、応接間や書斎、場所はどこでもいいが、しかるべき部屋に飾って、楽しむことが本来の姿ではないか、という指摘である。もちろん、学芸員である笠原氏は、「墓場である美術館」をそれを肯定的な意味で使う。アートは世間の喧噪から切り離れて、しばし安眠しているのだ、と。

死の時間を生きる「廃墟」はアートか?と言われれば、困る部分もある。アートは「人工」という意味もある。廃墟は自然崩壊という「時の醸造」による部分が大きい。廃墟になった時点では、人の手はかかっていない。

ただ、「廃墟」自体に美的根源は元々の建物の造形美にあるのだろう。多分、廃墟であろうと、なかろうと軍艦島は元々、すごいアートなんじゃないかと思う。

ライカM3 ズマロン35mm TMAX 080809軍艦島TMAX100

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