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2010年3月10日 (水)

「働き方」(稲盛和夫)★★★★

「働くことに意味なんか求める必要がない」という意見もあるが、僕はそうは思わない。

京セラの稲森和夫氏は「働き方」で、いま、多くの人が働くことの根源的な意味を見失い、「働くこと」そのものに真正面から向きあっていないように思えると書く。

稲盛氏は恵まれた少年時代を過ごしたわけではない。中学受験に失敗、結核を煩い、再度の中学受験にも失敗。さらに、戦災で家を焼かれた。医学部受験も失敗し、地元の工学部に進むも、就職先は、初任給も給料日に支払われないような小さなガイシ(外資ではない)の会社だった。

「自分は運がない」と嘆いたそうだが、そんな考えを変えたのは一生懸命、働くということだった。天職とは出会うものではなく、自ら作り出すものだと稲盛氏はいう。

製品も愛情から、セラミックス製の蛇管を抱いて、寝たこともあった。「垢抜けないし、効率的とは言えないやり方。しかし、そのくらいの愛情を持って、自分の仕事に向き合わない限り、難しいテーマや新しいテーマに挑戦し、それをやり遂げる仕事の醍醐味は心の底から味わうことはできない」と書く。

経営の神様、松下幸之助も同じようなことをしている。非常に精神的な行為であるが、その声を聞こうとすることで見えてくるものがある、という。

稲盛氏は京都市中京区西ノ京原町に「京セラ」を立ち上げる。稲盛は「西ノ京原町で一番の会社になろう、その次は中京区で一番、その次は京都一に。その次は日本一、そして世界一だ」と社員に語りかけた。それは途方もない目標であった。町にも立派な会社があり、京都には島津製作所があり、現実は厳しかった。

「たとえ身のほど知らずの大きな夢であっても、気の遠くなるほどの高い目標であっても、それをしっかり胸に抱き、まずは眼前に掲げることが大切だ。人間には夢を本当のものにしてしまう、素晴らしい力がある。京都一、日本一の企業となると思い続けているうちに、いつのまにか自分自身でもそれが当たり前のように思えてきました。従業員にとっても同様で、いつのまにかとてつもない目標を私と共有し、果てしない努力を日々重ねてくれた」

「高い目標とは人間や組織に進歩を促してくれる、最良のエンジンである」。

SF作家、ジュール・ヴェルヌも「人が想像することは人がかならず実現できる」との言葉を残したが、夢を思い描くことが実現の一歩なのだ。

しかし、それにはたゆまぬ努力が必要だ。京セラは完璧主義を求める。ベストではなく、パーフェクトだ。ベストでは、ああここまでやったと満足してしまう。パーフェクトはとことん追い詰めるという意味だ。

新製品開発ではうまくいかず、炉の前で立ちすくむ社員がいた。稲盛氏は「おい、神に祈ったか?」といった。それは思わず口をついた言葉だったが、人事を尽くし、天命を待つしかないくらい全力を出し切ったのか、という意味であったと思い返している。

京セラは長期の経営計画を立てずにやってきた。それは遠くを見るというのはたいていウソに終わるという考えだという。ゴールが見えなかったら、従業員も目標をあなどるようになり、士気や意欲を失う。それよりも、瞬間瞬間を大切にして、小さな山を越えてゆくことが大切なのだ、という。

長期計画よりも、大事にしたのは信念だ。

稲盛は最初に就職した会社であまりにも信念を貫き、孤立した時があった。先輩からは「人生には妥協が必要だ」と助言された。納得する部分もあったが、結局、信念を貫くことにした。

山を登るにはいくつかのやり方はある。緩やかな斜面を登るのも手。垂直に登ると決意する。それはこういう考えだった。安全な方法をとっているうちに、険しい頂上をきわめようとする気持ちを忘れてしまうかもしれない。岡本太郎、安藤忠雄にしても、彼らは妥協を嫌い、人生に闘いを挑んだ。

「創造というものは素人がするもので、専門家がするものではない。新しいことができるのは、何ものにもとらわれない、冒険心の強い素人であり、その分野で経験を重ね、多くの前例や常識を備えた専門家ではない」

この言葉の裏付けはジェームズ・アレンの以下の言葉だ。

「けがれた人間が敗北を恐れて踏むこもうとしない場所にも、清らかな人間は平気で足を踏み入れ、いとも簡単に勝利を手にしてしまうことが少なくありません。なぜならば、清らかな人間はいつも自分のエネルギーをより穏やかな心とより明確でより強力な目標意識で導いているからです」

最後に、稲盛氏の人生観。それはひとつの方程式で表すことができるという。「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」。この中でも、大切なのは考え方だという。

正しい考え方とは?

「常に前向きで、建設的であること」
「みんなと一緒に仕事をしようと考える協調性を持っている」
「明るい思いをいだいていること」
「肯定的であること」
「善意に満ちていること」
「思いやりがあって、優しいこと」
「真面目で正直で謙虚で努力家であること」
「利己的ではなく、強欲ではないこと」
「『足るを知る』心を持っていること」
「そして、感謝の心を持っていること」

働くことが面白くないと感じた時は、この言葉を自問してみよう。


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コメント

まったくもって大きくうなずける内容です。
僕は同氏の「生き方」を読みましたが、
そこにも働くことの意味を書き尽くしています。

「マズローの5段階の欲求」の最終段階は「自己実現の欲求」。
これは第3段階の「所属と愛の欲求」、第4段階の「承認の欲求」に根ざしたものであり、
第3段階・第4段階は勤労を通してクリアするんだと思います。
つまり「働く」というのは人間の根源的な欲求を満たすための手段であり目的なわけで、だから働くことには大いなる意味があるはずです。


投稿: まさやん | 2010年3月11日 (木) 11時40分

まさやんさん

>まったくもって大きくうなずける内容です。
>僕は同氏の「生き方」を読みましたが、
>そこにも働くことの意味を書き尽くしています。

「生き方」も読んでみたいと思います。ブログで紹介していますか?

>つまり「働く」というのは人間の根源的な欲求を
>満たすための手段であり目的なわけで、だから働
>くことには大いなる意味があるはずです。

同書に書いてあったのかは失念しましたが、西洋と日本の労働観が違う、というのも興味を引きます。
聖書では、人間はそもそも楽園にいたが、禁断のりんごを食したことで追放され、労働することになった、というのが価値観の根底にあるのではないか、といいます。

つまり、労働は罪悪的な考え方があるそうです。日本では、そういった考え方はありません。

とはいえ、日本人は働きすぎだと思いますけどね。

投稿: kuzmik | 2010年3月15日 (月) 06時20分

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