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2010年5月 6日 (木)

「ベーシック・インカム入門」(山森亮)★★★★ 「働かざるもの食うべからず」は正しいのか?

ベーシックインカム(BI)は「すべての個人が無条件で生活に必要な所得への権利を持つ」という考え方。

著者の山森亮氏は1970年生まれの経済学者。同書は6章立てになっていて、興味によって、どこからでも読めるようになっている。章の終わりには「まとめ」もあるので、おさらいもできる。

この「無条件給付」については疑問がある人もいるだろうと山森氏はいう。自身も90年代にBIについて初めて聞いた時は嫌悪感を持ったと告白する。

(1)お金持ちにも給付するのは馬鹿らしくないか?
(2)働く気のない人に給付するのはよくないのでは? というものだ。

「働かざるもの食うべからず」ということわざがある。

しかし、働けない者は生きる権利はないのだろうか? 

この言葉には逆のことも言える。先祖代々の土地や財産を所有し、不労収入を得ている人はどうなのか? 相続税100%として没収すべきなのか? 

いやいや、すべての個人は生きる権利(生存権)がある。

福祉国家の理念として1)完全雇用 2)社会保険 3)公的扶助(=生活保護)の3つがある。

しかし、実際はどうだろうか? まず、この完全雇用が崩壊し、ワーキングプアが存在する。

生活保護については不正受給がクローズアップされている。不正受給は当然、おかしいが、これ自体がBIへの抵抗感にもつながっているように思える。また、捕捉率も20%と他国に比べて、極めて低い。

生活保護に関していえば、現状の5倍の予算が必要ということになるわけで、こうした事情を考えば、BIの方が政治的な実行可能性は高いのではないか、と投げかける。

ごみ収集、図書館利用など社会のシステムの多くは誰でも利用、参加できるものだが、生活保護に関して言えば、選別の仕組みの中にある。そして、多くの人がそれを当然と考えている。しかし、この選別性は特殊と言える、と山森氏は書く。

BIは突拍子もない考えのようにも思えるが、実は200年以上の歴史を持つ。イングランドの思想家トマス・ペインは18世紀末に原型とも言える考え方を披露している。マーティン・ルーサー・キング牧師が1968年に行った「貧者の行進」もBIを訴えたものだ。

ジョン・スチュアート・ミルは「経済学原理」でこう書く。

「生産物の分配の際にはまず第一に、労働のできる人にもできない人にも、ともに一定の最小限度の生活資料だけはこれを割り当てる」。つまり、BIである、と。

BIを唱える経済学者はけっしてマイナーでもなく、右派左派共通の認識だ。例えば、ネオリベを自称するフリードマンも「負の所得税」という形でBI的な考えを提唱しているという。

BIへ懐疑的な人は2つの疑問を持っている。

1)導入されれば、人は働かなくなるのでは?
2)財源はどうするのか?

また、炭鉱労働者、ゴミの運搬人など危険であったり、汚れる仕事は誰もやらないのでは? との問いもあるが、「現状の労働条件ではしないだろう。しかし、それに値する高賃金を支払えば、働く人はいるだろう。また、それが正しく尊敬を払うあり方だ」とブリュッセルのフーリエ主義者ジョゼフ・シャルリエは言う。

不労の可能性についてはミルトン・フリードマンやミードの考えを例に出す。フリードマンらは労働インセンティブを高める必要があると主張していると披露。山森氏は「不労の可能性があるとは一概には言えない」とまとめる。

財源問題については「奇妙なのは、お金がかかるすべての話に財源をどうするのかという質問されるわけではないことである」「財源をどう議論したいのではなく、単に相手を黙らせたいだけであると思わざるを得ない」と手厳しく言った上で、論を展開していく。

財源の問題については定率所得税派、再分配重視派、消費税派、環境重視派などがあるが、この議論とは別に、どんな税制と社会保障の組み合わせが公正か、効率的なのかと議論が進んでいる、という。

最後には日本でどのようにBIが進む可能性があるのかを提言する。

1つ目は生活保護や児童扶養手当の制度改正。困窮者がいるのに、受給者数が増えない現状を問題視すべきではないか、という。

2つ目は年金の税方式化の推進。払い始めから支払いまでタイムラグがあれば、コストも多大。税方式とすれば、高齢者対象のBIになる。

3つ目は児童手当の所得制限の撤廃。(同書は子ども手当以前に書かれている)。

4つ目は所得控除の給付型税額控除化。現在の扶養控除は課税最低限の低所得層には意味がなく、給付型の税額控除に変えるべき、という。これは英米では導入済み。定額給付金でも、ある程度の経済効果があったわけでBIには一層効果があるのでは、と主張する。

つまり、年金が税財源化され、児童手当が普遍化、増額され給付型税額控除が導入されれば、多くの人が部分的なベーシックインカムを手にすることになる。

システムを簡略化すれば、コストも人件費もカットできるだろう。

BIについては賛否さまざま意見がある。

ツイッターで、本からの抜粋(上記の内容)をツイートしたところ、「BIよりも負の所得税の方が優れている」「BIは自由主義である。金はやるから、後は知らないということにはならないか?」といった意見もいただいた。

「誰でも生きる権利はある」という基本的な考えは賛同できる。急激なBI導入は危険だが、徐々にBI的な政策を取り込むことは可能であろうし、今後とも大いに議論すべきだ。話題のBIだけに、一読の価値ありだ。

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書評 ブックレビュー」カテゴリの記事

コメント

これは考えさせられるテーマです。話が具体的になればなるほど賛否両論入り交じることでしょう。

で、僕はというと、
正直なところ感覚的に共感できないです。
やっぱり「働かざる者食うべからず」的な思考になります。

生活困窮者が「生きる権利」を主張して受給されるのも、
先祖代々の土地をふりかざして働かずに悠々自適に収入を肥やしている者も、
確かに生きる権利は成就しているでしょうが、
果たして「生きる喜び」を得ているのでしょうか。

人間というのは「働いて」成果を出し、
その成果を享受する人々から感謝・賞賛されることによって
生きる喜びを噛みしめる、
それがまっとうな人生だと思うのです。

生活困窮者が、片や生きる喜びを得ているのならば話は別ですが、
得てしてこういう人たちは、生きる喜びそのものを忘れてしまっており、だから困窮者になってしまっているのではないでしょうか。

「自分が貧乏だから行政は何とかしろ」というのは、いかにも「さもしい」話ではありませんか。
その前に、おのれ自身の生き方をもう一度深く考えてみる、ということが必要なんだと思います。

投稿: まさやん | 2010年5月 7日 (金) 08時12分

まさやんさん

賛成派も反対派も、この本は読んでおいてもいいかと思います。

ベーシック・インカムについては相当な議論が必要かと思われます。

僕はこの本を読む1年以上前に山森さんの講義を聴く機会を得ました。当初、山森さんと同様に違和感を覚えたのは確かです。「働かない人間に給付するのは理屈に合わないのではないか」というものです。

同書を読むと、分かるかと思いますが、BI論者は「生存権」と「労働を通じて、享受できる生きる喜び」は別の次元だと捉えています。

BIは上から目線で生活を保護しようという考えではなく、そもそも、全ての個人の生きる権利を保障しようという概念。

僕も「働くことは喜び」「生きる価値のひとつ」だとは思いますが、その下にある、まさにベーシックな権利ということです。

僕は、基本的な考えには賛同できますが、いくつか分からない面もあり、その点では留保といった感じです。

投稿: kuzumik | 2010年5月 7日 (金) 09時08分

生活保護を貰った方が、低賃金で働くよりお得・・・なんてことが、海外でもあるようですが、それでも働くというお母さんを見て関心したことがあったのを思い出しました。

そういえば先日、動物の生体を紹介する番組で、獲物は皆で公平に分配するけれど、毒蛇のようなリスクの高い獲物の場合は独占できるというルールがある。なんてことをやっていました。

野生動物の方が、案外人間よりも仲間の生存権に真摯なのかも知れませんねぇ。


どこかの宗教でも、富めるものが貧しいものに施しをするのは当然のこと・・・といった考えがあると聞いたことがありますが、資本主義のギスギスした社会には、そんな考えも必要なのでは無いかとも思います。

働けるんなら食える、食えないに関わらず、働きたいとも思いますけれど。

投稿: しぇるぽ | 2010年5月 7日 (金) 17時50分

こんにちは。
今度子供手当がどうのと....
そのせいか?
以前はいろんなイベント...
子供向けのものが市で企画されていたのですが....
全く見かけなくなりました!
どっちがいいのかな?

投稿: rainmans DS & iPad | 2010年5月 7日 (金) 22時56分

しぇるぽさん

>生活保護を貰った方が、低賃金で働くよりお得・・
>・なんてことが、海外でもあるようですが、それで
>も働くというお母さんを見て関心したことがあった
>のを思い出しました。

BIには労働のインセンティブがないのでは、というのは指摘されるところです。制度設計としては「負の所得税」の方がインセンティブが考慮されていると言われますね。

>そういえば先日、動物の生体を紹介する番組で、獲
>物は皆で公平に分配するけれど、毒蛇のようなリス
>クの高い獲物の場合は独占できるというルールがあ
>る。なんてことをやっていました。

>野生動物の方が、案外人間よりも仲間の生存権に真
>摯なのかも知れませんねぇ。

>どこかの宗教でも、富めるものが貧しいものに施し
>をするのは当然のこと・・・といった考えがあると
>聞いたことがありますが、資本主義のギスギスした
>社会には、そんな考えも必要なのでは無いかとも思
>います。

ベーシック・インカムは富の分配のように思われている節もあるのですが、その面は否定できないにせよ、権利としての公平に支給すると捉えています。

>働けるんなら食える、食えないに関わらず、働きた
>いとも思いますけれど。

僕も同じですね。BIがあってもなくても、体が動けば、働くでしょう。

投稿: kuzumik | 2010年5月 8日 (土) 08時33分

rainmans DS & iPadさん

>こんにちは。
>今度子供手当がどうのと....
>そのせいか?
>以前はいろんなイベント...
>子供向けのものが市で企画されていたのですが....
>全く見かけなくなりました!
>どっちがいいのかな?

子ども手当の財源をめぐっては国と地方自治体がもめていますからね。そうなると、市も圧縮せざるを得ないでしょうね。

イベントは市でなくても、市民側で企画してもいいかもしれませんね。今後は市民自治の観点も必要かと思います。

投稿: kuzumik | 2010年5月 9日 (日) 00時40分

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